むし歯は進行していき、その時の状態によって治療方法も変わっていきます。早く発見し適切に治療ができれば歯を長く維持することができ、反対に発見や治療が遅れると歯を失う可能性もあります。
むし歯は、歯の様々なところに食べカスやプラーク(歯垢)が溜まり、その中に存在する細菌が酸を生み出して歯を溶かしていくことで発生します。プラーク(歯垢)は食事をしてから24時間ほどそれらの食べカスなどを放置することで発生します。
そのまま放っておくとプラーク(歯垢)自体は歯石へと変化していきますが、その過程でプラーク(歯垢)の中にいる細菌が酸を多く生み出し、むし歯を発生させます。
むし歯が発生するまでのスピードは個人差やそのほかの影響が多く関わっており、どれくらいの期間でどこまでむし歯が進行するのかは一概には言えません。
しかし、むし歯が一定のステージに到達するまでは、セルフケアによって歯が自己修復することを促すことも可能であり、一方である一定のところまでむし歯が進行すると、歯の神経や歯自体を抜く以外に治療手段がなくなります。
そのため、早い段階で発見し治療できるよう定期検診を欠かさないか、あるいはむし歯を未然に防ぐ生活習慣自体をしっかりと身につける必要があります。
むし歯はその進行状態によって、現在5段階に分けられています。
それぞれの進行状態の状況と症状、治療方法を見ていきましょう。
初期むし歯は、痛みなどがないため、自覚症状がほとんどありません。
たまに歯を鏡で見ると少し茶色ところや、白くなっているところを見つけることがありますが、このような症状が初期むし歯です。これは歯の表面が少し溶かされた状態であり、まだ歯に穴は空いていません。そしてこの状態であれば、また表面を自己修復し、元通りにすることが可能です。
自己修復は、唾液が重要な働きを担っており、唾液に含まれるリンやカルシウムといった栄養素が、溶かされた表面を修復し元通りにします。
ただし、歯をしっかり磨かずに食べカスやプラーク(歯垢)を歯の隙間などに残していると、唾液の修復機能以上に歯の表面を酸が溶かしていき、最終的にはむし歯になってしまいます。また、唾液に問題があり、修復機能が正しく働かない場合や、何らかの問題で唾液の分泌自体が減ってしまうこともあり、注意が必要です。
唾液による自己修復効果を正しく発揮させるためにも、普段から歯を丁寧に磨くことは必須ですが、同時に唾液の分泌を促してこの修復効果を促進する方法も考えられます。食事の際にしっかりと噛むことを意識したり、砂糖が含まれていないガムなどを噛むと、唾液の分泌を促すことができます。
また、むし歯予防でよく利用されるフッ素は、唾液とは別で自己修復を促進する働きがあり、またフッ素が歯の表面に取り込まれると、通常の表面のエナメル質よりもさらに強固なエナメル質が作られます。フッ素は、むし歯がない状態からこの初期むし歯の状態では、非常に大きな効果を発揮してくれます。
エナメル質とは、歯の表面をコーティングしている非常に硬い部分です。「エナメル質のむし歯(C1)」のむし歯では、まずこのエナメル質に穴が空きます。
歯はこのエナメル質、その下の象牙質、そして神経という層で構成されています。そのため、このエナメル質に穴が開いても、まだ直接歯が痛んだり、しみたりすることはありません。
このむし歯になると、歯の表面が黒くなります。そのため、痛みを感じなくとも、奥歯の噛み合わせや歯と歯の隙間など、むし歯になりやすところが黒くなっている場合は、この「エナメル質のむし歯(C1)」のむし歯になっている可能性が高いです。
この進行状態では、歯医者での治療が必要となります。歯医者では、むし歯になったエナメル質を削り取り、そこに詰め物をして治療は完了となります。痛みを感じないこの状態では、治療でも痛みを感じることはほとんどありません。
象牙質とは、歯の表面のエナメル質の下にある層で、象牙質の下には神経があります。
この象牙質まで進んだむし歯では、食べ物を噛むと痛みを感じたり、冷たい飲み物を口に含むとしみたりすることが多くなります。歯が痛み始めたら、この「象牙質まで進んだむし歯(C2)」のむし歯になっている可能性が高いです。
深いところまで穴が開いており、治療方法としてはむし歯になっているエナメル質と象牙質を削って、むし歯の大きさによって様々な詰め物をします。
むし歯になった象牙質を削っても痛みはありませんが、むし歯になっていない健康的な象牙質は削ると痛みを伴います。そのため、この「象牙質まで進んだむし歯(C2)」のむし歯の治療から、傷みを感じる可能性があります。
治療の際に麻酔を利用するかどうかは最終的に歯医者の判断になりますが、健康的な象牙質を不要に削らないために、麻酔を利用せず、傷みを感じない範囲で象牙質を削っていく治療が行われることもあります。そのため、この進行状態の治療では痛みが伴うことがあります。
また、1回で治療を完了させず、仮の詰め物をして1週間ほど時間をおき、その後仮の詰め物を除去して、問題なく治療が完了しているかを確認することもあります。問題がなければ実際の詰め物をして、治療を完了させます。
むし歯は象牙質を超えると神経に到達し、神経に到達したむし歯は強い傷みを引き起こします。
「象牙質まで進んだむし歯(C2)」のむし歯と比較すると、冷たい飲み物でより強くしみることが多くなったり、熱い飲み物でも傷みを感じたり、また飲食をしていない安静時に痛みを感じることもあります。
「神経まで進んだむし歯(C3)」の治療では、むし歯になったエナメル質や象牙質のほか、歯の神経も除去しなければいけません。神経は非常に強い傷みを感じるため、必ず麻酔をし、むし歯が進行した神経や血管などを取り除いていきます。
全て取り除いたらその部分に薬剤を投与します。薬剤投与後、歯の根本の治療が完了したことが確認できたら、歯を補強して被せ物をして治療を完了します。
この治療は時間や回数がかかります。最低でも2、3回は通院し、また神経を取り除く治療の際は1回で2〜3時間はかかるでしょう。麻酔が効いてから治療をするため、歯の傷みを感じることはありませんが、長時間の治療のため体に負担がかかり、治療後は疲れを感じる可能性があります。
また、治療が完了した歯は神経がなく、血も通っていません。このような歯は詰め物や被せ物をして補強しても、歯が脆くなって欠けやすくなっています。健康的な歯と比較すると寿命は短く、将来歯を失う可能性が高いです。
歯を失うと、それをきっかけに様々な病気や体の不調を引き起こす可能性があり、たかが歯一本と思っていると、後で辛い思いをする可能性もあります。一度神経を抜くともう健康的な歯に戻れないため、この「神経まで進んだむし歯(C3)」になる前にむし歯を治療するようにしましょう。
この状態では、歯の上部はむし歯によって溶かされ原型が残っていません。歯の根っこである歯根だけが残っている状態です。
神経は完全に機能を失っており、そのため痛みを感じることもありませんが、歯の衛生状態は非常に悪く、悪臭を伴っていることが多いです。
歯を見ればこの進行状態であることはすぐにわかりますが、痛みがないからといって安心してはいけません。この進行状態から、さらにむし歯は歯の根元まで進行していき、歯の根元の先に膿が溜まります。
膿が溜まると歯茎が腫れて歯茎の痛みを感じたり、また歯茎から細菌に感染し、口の中だけに止まらず、体全体の病気を引き起こします。脳や心臓など、体の重要な機能に影響を与える可能性もあり、決してこの状態を放置してはいけません。
「歯根だけ残ったむし歯(C4)」の歯は、ほとんどの場合この歯を再生することはできず、歯を抜く治療を行うことになります。麻酔を行い、場合によっては歯茎を切開し、歯を完全に抜き取ります。
抜歯後はブリッジという両隣の歯を利用して空いている場所に人工の歯を取り付けたり、入れ歯やインプラントなどを行うことになります。
抜歯後に歯医者に通院せず、抜歯後放置しているケースもありますが、噛み合わせの変化によって顎に負担がかかったり、周囲の歯に悪影響が出たりします。必ず何らか抜歯した箇所を補強する治療を行いましょう。